艦これが殺したもの、モバマスが再生したもの
今期(2015年1月から)のアニメでは、200万人以上のプレイヤーと100以上のキャラクターを抱える人気ソーシャルゲーム、艦隊これくしょん(艦これ)とアイドルマスターシンデレラガールズ(モバマス=モバゲーのアイマスだから)が同時期に放送されるということで、大きな話題になっていた。
まだ2話までしか放送されていないが、これまでのところ、艦これの評価はいまひとつでモバマスはかなりの好評を博している。
その原因について、双方を初期からプレイし、二次創作もかなり追いかけてきた立場として考えてみたい。
■二次創作
艦これにしてもモバマスにしても、人気の一端は二次創作の盛り上がりが支えていた。
コミケでは艦これが独立ジャンルになるほどだし、モバマスも今でこそ下火になっているものの、二次創作はサービス開始からそれなりに活況を呈していた。
これは、キャラの数が多い割にストーリーらしいストーリーがあまりないソシャゲのメリットでもある。いわば二次創作をする「スキマ」がたくさんあったのだ。
モバマスで言えば、身長差コンビの諸星きらりと双葉杏(あんきら)の関係や、本田未央が不遇だったり新田美波がエロかったりなどの二次設定が生まれ、ものによっては原作ゲームに取り入れられていった
艦これでも同様に、赤城が大食いだったり足柄が男漁りをしていたりなどの二次設定が生まれたが、モバマスほど積極的に二次設定を原作ゲームに取り込んでいなかったように思える。
とはいえコンテンツそのものの規模の差は大きく、pixivの投稿数でも、艦これタグのついたイラストが26万件以上なのに対し、モバマスは8万件程度と、モバマスの方が1年半ほど古く始まったサービスなのにも関わらず、艦これの方がはるかに活発である。
■艦これアニメが殺したもの
艦これアニメは、二次創作ネタを拾った。
その結果生まれたものが、足柄の合コンであり、赤城の大盛りカレーである。
私はこれを見たとき、不思議な気持ち悪さを感じた。よくできた二次創作のファンムービーを見ているような気分になったのだ。
恐らく、製作陣はこう考えたのではないか。「二次創作で流行っているネタを盛り込めば、ニヤリと笑って盛り上がるに違いない」と。
だが、少なくともそれは私が見たいものではなかった。確かにネタとしては私も好きだが、それはあくまで二次創作として、いくつも生まれている二次設定の中の一つとして楽しむ範囲の話だ。
艦これアニメは、この二次設定を公式のものとすることで、「合コンをしない足柄」を、「小食な赤城」を、殺した。
思うに、二次創作は、二次創作なのだ。作っている側も、消費している側も、サイドストーリーであり裏側の物語であるということを、意識している。だからこそ、全く異なる世界観の作品が並んでいても、ああこういう解釈もあるよね、ああこの台詞をこう受け取るんだね、という形で楽しむことができる。
艦これアニメが殺したのは、二次創作の可能性だった。猫が入った箱は、観測されるまで中身が分からない。箱の中で猫は液体になっているかもしれないし、気体になっているかもしれない。何を考えても、何を想像しても自由だ。だが、猫は観測されてしまった。もう、猫は猫だ。
■モバマスアニメが再生したもの
モバマスアニメは、世界を作った。
渋谷凛は渋谷凛らしく、島村卯月は島村卯月らしく、ゲームそのもので使われる設定を使って、この子たちがいるべき世界と、そこで語られるべきストーリーを作った。
そこには346プロがあり、武内Pがいて、そしてモバマスの登場キャラクターたちが活躍している世界があった。
そして、その世界の中に、たくさんの「スキマ」を作ってくれた。
武内Pがあっという間に大人気になったのは、武内P自身の魅力もさることながら、このPと自身の担当アイドルはどうやって関係を作ったのだろう、という想像が広がったからだ。
[武内Pとアイドルの日常]
http://dic.pixiv.net/a/%E6%AD%A6%E5%86%85P%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%AB%E3%81%AE%E6%97%A5%E5%B8%B8
「スキマ」はこれだけではない。この作品では、色々なモチーフが(恐らく意図的に)使われている。それは直接何も説明はしないけれど、想像をたくましくすればどんな解釈でも可能だ。
例えば、前川みく。
自分に劣等感を抱えているという彼女の設定が、こういったモチーフに見て取ろうと思えば見て取れる。そこに想像力の「スキマ」がある。そして、二次創作が生まれる。
[アニメ版「アイドルマスターシンデレラガールズ」1話&2話の前川みくについて]
http://togetter.com/li/771731
例えば、高垣楓。
第2話で一瞬だけ出てきた彼女は、武内Pと挨拶を交わすシーンしかない。だが、そのやり取りに微妙な違和感を感じられる。そして、二次創作が生まれる。
[アニメ『アイドルマスター シンデレラガールズ』第2話の武内Pと楓さんのやりとりの裏側を補完した漫画が完璧すぎる件]
http://blog.livedoor.jp/qmanews/archives/52119744.html
正直、2011年11月にサービスインしたモバマスは、かなり下火になっていた。二次創作も、もちろんコアなサークルさんは続けていたが、ひところに比べるとずいぶん減っていた。
モバマスアニメが再生したのは、二次創作の可能性だった。魅力的なキャラクターに、彼女たちが活躍する世界とストーリーを与え、そしてそこにたくさんの「スキマ」を作ってくれた。一つの箱が開けられたら、色とりどりの小さな箱がたくさん入っていたのだ。
■おわりに
もちろん、艦これの二次創作がこれで終わるわけではない。アニメを下敷きにした二次創作はこれからもたくさん生まれてくるだろうし、アニメを単なる一つの世界線として、全く別の世界を構築する作品もあるだろう(艦娘かわいい!な作品もね)。
だが、艦これが公式として作ったアニメは、二次創作におけるたくさんの可能性を殺したように思う。そして同時に放送されたモバマスアニメは、これまでの可能性をなるべく殺すことなく、ただ可能性を増やすことに成功したように思う。
まだ、艦これもモバマスも2話までしか放送されていない。これから大きな転換があり、艦これアニメも最終的に唸らされる可能性も、もちろんある。
ただ今のところとしては、艦これには、二次設定を全く気にすることなく、一つの作品として、あるべき世界とあるべき物語を紡いで欲しかった。それでこそ、たくさんの可能性が生まれただろうに、と思うのだ。